研究
澤井 彩織 先生旭川医科大学 2015年(平成27年)卒業
生まれも育ちも北海道で、今後も北海道で暮らしたいと思いました。北海道で小児科医として働くことを考えたときに、様々なグループがあり、また関連病院も多い北大小児科に魅力を感じました。
私は現在、小児血液・腫瘍グループに所属しています。病棟を担当していた時には、主に小児がんの患者さんの治療に携わりました。小児がんの中で最も多い疾患は白血病です。現在、化学療法や造血幹細胞移植といった治療の進歩により白血病の治癒率は向上していますが、残念ながら寛解不能例や再発例が存在します。このような難治例が存在する原因として、化学療法に抵抗性で、自己複製能を有する極少数の白血病幹細胞の存在が想定されています。私はこの白血病幹細胞について、北海道大学腫瘍病理学教室と共同で研究しています。
今は臨床から離れて研究をしていますが、臨床とはまた違った形で白血病に携わることができ、非常に勉強になります。研究初心者の私にとって研究の視点からみた白血病は、全くと言っていいほど新しい世界でした。わからないことだらけですが、指導医の先生方に教わりながら、なんとか続けています。
お世話になっている腫瘍病理学教室には、病理医を目指す先生はもちろんですが、私のように他の診療科から勉強しに来ている大学院生もいますので、同じ境遇の先生方と切磋琢磨しながら研究しています。人脈が広がったこともまた、研究をはじめて良かったことのひとつです。
研究を実際にやってみてはじめて、研究の大変さや面白さを知りました。そして、思うような結果が出なくてもやり続ける忍耐力が必要なこともよくわかりました。これらは、実際に自分で足を踏み入れないと決してわからなかったと思います。
私は大学院在学中に妊娠・出産を経験しました。現在は育児をしながら研究を行っています。育児と研究のバランスに頭を悩ませ試行錯誤の毎日ですが、家族にたくさんサポートしてもらいながら、なんとか継続しています。
自分にとって新しい仕事を、新しく出会う人達の中で行う環境というのは、北大にいながら国内留学しているみたいだな、と思ったりします。北海道が大好きで離れたくない方、家庭の事情などで国内・国外留学が難しい方でも、北大には研究できる環境があります。是非、北大小児科にいらしてください。
平松 泰好 先生札幌医科大学 2015年(平成27年)卒業
小児科医になりたくて医学部を受験しました。他大学出身でしたが、初期研修先は地元の帯広厚生病院と決めていたので、何となくそのまま同院で小児科医になるのかなと思っていたこともあり、1年目に1か月間、2年目に6か月間小児科で研修し、そのまま小児科医のスタートを切りました。特に迷うことはありませんでしたが、強いて言えばサブスペシャリティの選択肢や関連病院の数や規模、同期入局の多さなどが決め手でしょうか。
大学院の研究テーマとして脳磁図解析を行っています。脳波が電流を測定するのに対して、脳磁図はその電流が作り出す磁場を測定します。電流は頭蓋骨や脳脊髄液によって減衰しますが、磁場はその影響を受けず、またセンサーの数も脳波が21-23個に対して脳磁図では306個と圧倒的に多いため、空間的解像度の高いてんかん焦点診断を可能とします。
しかし、センサーを冷却するための液体ヘリウムや磁場シールドルーム(周囲の磁場の影響を受けやすいため)の維持管理、データ解析のための高性能コンピューターとソフトウェア、運用・メンテナンスに関わる専門技術者の確保などがネックとなり、現在てんかん診療に脳磁図を用いている(用いることが出来ている)施設は全国で9施設しかありません。北大は、現在でもバリバリ稼働している貴重な施設の一つです。
てんかんについては、大学病院ということもあり難しい症例が集まってきます。複数の抗てんかん発作薬を使っても発作がコントロールできない難治性の焦点てんかんで、病変部が同定できないために手術適応にもならず、長きに渡って発作に苦しむ患者さんも数多くいらっしゃいます。しかし、一部の患者さんの中には、手術によっててんかんを起こしている部位(てんかん原性焦点)を切除することで発作から解放される方がいらっしゃいます。そのような患者さんの手術適応を拡げるべく開発された脳磁図解析法(当グループの中島翠先生らが留学先のカナダで開発されました!)について、その可能性をさらに拡げることを目的とした臨床研究を行っています。発作から解放されたことで、夢だった看護の道に進むことが出来た患者さん、停滞・退行していた発達が再び伸びはじめて普通学級に通えるようになった患者さんたちの笑顔が今の自分の原動力になっています。
学内外の医師、コメディカル、工学から教育まで
多様なメンバーからなる脳磁図カンファレンス
研究(している風の)風景
北大小児科の全てのグループに言えることですが、先輩方が築き上げてきた伝統を受け継ぎつつ、それをさらに進化・発展させていくという気風がここにはあります。また、研究だけの4年間というわけではなく、大学の通常業務や一般小児科医としての出張もバランス良く続けられることも北大小児科の魅力ではないかと思います。HPをみて少しでも興味をお持ちいただけましたら、まずは説明会や勉強会、もしくはふらっと見学にいらしていただけますと幸いです。学生さんや研修医の先生だけでなく、他科の先生や他施設の小児科医の先生も大歓迎な医局です!
大学院1年目の初の全国学会
2年目の初の海外学会
丸尾 優爾 先生北海道大学 2015年(平成27年)卒業
私は現在医師10年目(小児科8年目、大学院3年生、循環器グループ所属、2児の父)です。今回、この文章を読んでくださる皆様として、学生、研修医、小児科専攻医の方々を想定して記載させていただきます。
私は、学生・研修医の時に、お産を見て感動し、お産に関わる仕事がしたいと思ったのがきっかけとなり、最終的に赤ちゃん側の診療に携わりたいと思い、小児科に進むことを決めました。研修医の際に具体的に自分が何をしたいのかを決めることができず、小児科であればサブスペシャリティを決めるまでに時間的な猶予があったことも決め手の一つでした。北大小児科には多くの診療グループがあり、自分が将来やりたいことが決まった時に、その希望が叶いやすいと感じたため、北大小児科を選びました。その後は、小児科医として多くの患者様と出会い、また尊敬する上司との出会いなどを通じて、小児循環器の道に進んでいます。
北海道大学小児科循環器グループでは、北海道大学大学院薬学研究院の薬剤分子設計学研究室と10年以上に渡り、心筋ミトコンドリアに対する薬物送達について共同研究を重ね、ミトコンドリア機能を活性化した心臓由来細胞を開発し、その有効性について動物モデルを用いて実証してきました(① Abe J. et al., J Control Release. 2018、② Sasaki D. et al. Sci Rep. 2022、③ Shiraishi M. et al., J Control Release. 2024)。私たちは、臨床応用を見据えて、大量調達が可能で汎用性と安全性が高い細胞として間葉系幹細胞に着目しました。私は、間葉系幹細胞のミトコンドリア機能を活性化し、その有効性について動物モデルを用いて実証するということを主たる研究テーマとして、薬剤分子設計学研究室に学内留学させていただき、基礎研究を行っています。私たちはその先に、間葉系幹細胞のミトコンドリア機能を活性化することで、様々な疾患の治療として臨床応用することを目指しています。その他にも、ミトコンドリア創薬研究に関わる様々な基礎研究プロジェクトに参加させていただいております。
私は、臨床と基礎の両面に興味がありました。現在、臨床を経験しながら基礎研究プロジェクトにもその一員として参加させていただくことができ、このような機会を与えてくれた上司には非常に感謝しています。さらに、今後は海外留学も、可能であれば挑戦してみたく思っております。大学院に進むことで、こういった思いや目標を実現することにつながるのではないかと思います。
気がつけば医師になって10年が経ちました。しかし、これから先10年後に、自分がどのような道に進んでいるのかは、自分でも全く想像がつきません。研究は、これから先の自身の医師人生を、どのように過ごしていきたいかを考えるきっかけを与えてくれるものだと感じています。研究が向いていないと感じれば、やめれば良いですし、研究が少しでも楽しいと感じるのであれば、研究をライフワークとしながら臨床医としても成長できるような道に進めば良いのではないかと思います(中には臨床をやめてしまう先生もいらっしゃるかと思います)。長い医師人生の中で、臨床だけでなく、研究も一時的であれ経験することで、その先に自分がやりたいことを見つけるきっかけになるのではないかと思います。
人生は挑戦の連続であると思います。大学院での生活は、臨床、研究、子育てなど多くのイベントが重なる時期でもあり、忙しくはありますが、同時に非常に多くの刺激があります。海外留学もインフレと円安の影響で、かかる費用は凄まじい金額になっています。家庭、金銭事情、海外生活におけるリスクなどを考えると、行かない理由はいくらでもありますが、しかし、そのような中でも挑戦している人がいる、というのも事実です。大学で研究を行うということは、研究を通してこの先の自身の医師人生を考えるという意味でも、みなさんにとって非常に価値のあるものになるのではないかと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました。将来の道を決める上で、少しでも皆様のお役に立つことができれば幸いです。
金子 直哉 先生北海道大学 2014年(平成26年)卒業
もともと北大出身で、医学科5年生の頃から小児科志望でした。出身大学ということもあり、初期研修修了後に北大小児科に入局させていただき、道内の関連病院小児科で5年間勤務しました。小児科の診療は大変なことも多いですが、毎日子供や親御さんの笑顔がみられ、とてもやりがいがあります。その中で、重症の1型糖尿病の患者さんを担当し、当時の内分泌班のBossに御指導いただいたことがきっかけで小児内分泌に惹かれ、内分泌班の一員となりました。北大小児科は、common diseaseはもちろんのこと、稀少疾患・難治性疾患を経験する機会も多く、多くの仲間と一緒に、日々新しいことを学ぶことができると思います。
内分泌グループの仲間たち。中村明枝先生がお持ちの写真は竹崎俊一郎先生(免疫グループ、現KKR医療センター)の北日本小児科学会野球大会での御雄姿です。
小児がん経験者(Childhood Cancer Survivors:CCS)の内分泌合併症についての臨床研究をしています。
北大病院は小児がん拠点病院の一つで、多くの小児がん患者さんの診療をしています。CCSは小児がんの治療が終わった後も晩期合併症(特に内分泌合併症が多い)に悩まされることが多く、血液・腫瘍班の先生方と協力して合併症の検索、治療、フォローを行っています。小児がんの治療(放射線照射・化学療法・移植など)と内分泌合併症との関連、リスク因子、発症時期などを明らかにすることで、早期発見や適切な治療、診断基準の見直しの一助になり、CCSの健康管理に役立てるのが目標です。
多職種カンファレンスの様子
臨床の現場で日々患者さんと接していると、ふと頭の中に疑問が湧くことがあるかと思います。例えば、「なぜこの病気にこの治療が推奨されているのだろう?もっと良い治療法はないのだろうか?」「なぜこの病気の診断にこの検査が必要なのだろう?もっと簡単な検査はないのだろうか?」
こういった小さな疑問の積み重ねがクリニカルクエスチョンとして研究のきっかけとなり、新たな知見の礎になっています。臨床が大好きな先生も、研究の側面をみることで、世界が広がると思います。是非、北大小児科で、一緒にやりませんか?!
小児科外来にあるアームスパンを測定するための壁紙です。通常は身長と概ね同じ長さですが、骨系統疾患や放射線治療で脊椎に照射を受けた方は、アームスパンと身長が異なる場合があるので時々外来で測定しています!
佐藤 逸美 先生札幌医科大学 2013年(平成25年)卒業
新生児科医になりたくて小児科を志したので、研修病院のほとんどにNICUがある北大小児科を選びました。実際、小児科1年目を除き大学院生として大学に戻るまでの5年間は全てNICUがある病院に勤務し一般小児とNICU業務両方に携わっていました。
その後は縁あって大学病院の小児循環器班に所属し、優しくて厳しい上司や先輩方に小児循環器と基礎研究のご指導を賜っています。
北海道大学薬学部薬剤分子設計学教室と当科循環器班の共同研究として、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の疾患モデル動物を用いてミトコンドリア機能への介入によるDMDの進行抑制について研究しています。また、その研究過程で正常骨格筋ミトコンドリアへの薬物送達や機能活性化についても研究を行い、そちらについても廃用症候群やアンチエイジング等への応用を検討しています。
学生の時、基礎研究は難しすぎて私には無理だと早々に選択肢から消えました。
医師になってからも、臨床一辺倒で基礎論文も英語も統計も大の苦手で一生避け続けるつもりでした。
そんな私でも現在、日々実験を行い、英語論文を漁り、苦手なりに一生懸命研究データを統計解析しています。自分の人生で、日本の最高学府に研究のために単身でお邪魔したり、基礎研究で国際学会に行ったりする日が来るなんて全く想定していませんでした。でも何だか楽しいほうに転がり続けています。このようなきっかけと機会を与えてくれた上司には感謝しています。
北大小児科には臨床研究や基礎研究、社会医学含め様々な分野の研究者でもあり臨床医としてもスペシャリストである先生が多く在籍し、他大学や他学部、他科との共同研究やコラボレーションも多くあります。少しでも研究に興味があれば、まず一歩足を踏み入れてみて下さい。臨床だけでは見ることが出来ない世界が一気に広がると思います。
Euromit 2023 (2023/6/11-15 Bologna, Italy)にて
サン・ペトローニオ聖堂
齋藤 祐介 先生宮崎大学 2002年(平成14年)卒業
いつか故郷の北海道で小児科医として働きたいと思っていました。北大小児科のホームページにある「短期間でも北海道で働いてみませんか?」というメッセージと素敵な北海道の写真の数々でその思いが抑えられなくなっていました。北海道で働くにあたり様々な配慮を頂き、小樽市立病院という素晴らしい病院で勤務することができました。さらに、北海道で小児科医として勤務する傍、これまで続けてきた研究を発展させる機会にも恵まれ大変感謝しております。2023年4月からは北大病院のがん遺伝子診断部に勤務し、医師22年目ながら新しい挑戦の機会を頂きました。
これまで15年間は難治性白血病が治る時代を目指して研究を続けています。白血病幹細胞に対する抗体療法、白血病細胞のエネルギー代謝を標的とした新規低分子化合物やドラッグリポジショニングさらには、がん細胞の解糖系を標的とした治療開発などを行なっています。残念ながら、いずれも未だ患者さんに届けるには至っておらず道半ばの状態です。
こどもを苦しめる疾患は憎らしいほど強敵で、臨床の現場で無力感に苛まれたことがあると思います。しかし、誰もがその疾患の病態を明らかにし、治療法を開発する権利を持っています。一人で成し遂げることができなくても、情熱と想いを受け継いでいくことでいつか必ずその疾患を克服できると信じています。是非、挑戦への最初の一歩を踏み出してみてください。