児童精神科医としてはたらく
菊地 夏実 先生旭川医科大学 2018年(平成30年)卒業
もともと子どもと関わるのが好きで、ASDやADHDなどの神経発達症にも興味がありました。信頼関係を構築して診療を継続し、子ども達の成長していく姿を見ていけることにも魅力を感じていました。
初期研修を市立札幌病院で行い、素敵な指導医の先生や印象深い患者さん達との出会いもあり、小児科でまず身体的治療について学びたいと考えました。
北海道の小児科診療は、地域の特性上広域をカバーする必要があります。特に地方病院では幅広い分野の疾患の対応が必要で大変なところではありますが、その分やりがいもあります。
小児科で働いていると、神経発達症を持つ患者さんが身体的治療のために入院したり、外来のかかりつけ患者さんから子どものこころ関連の相談を受けることはよくあります。心身症や摂食障害、不登校、過量服薬の入院患者さんを担当することもありました。
そうした経験から子どものこころについてさらに勉強したいと思い、現在は北大精神科専攻医として研修を開始しています。子どもが問題を抱えている場合は、親も精神疾患や神経発達症を抱えている場合も多いということもあり、成人の精神科疾患についても勉強したいと考えました。
今後の働き方については検討中ですが、子どものこころの診療を継続していきたいと考えています。
子どものこころを勉強する上で、小児科で一般的な子どもの成長発達を勉強できるのはとても大事かと思います。また、精神科受診には至っていないけれどこころの問題で困っている子ども達も世の中にはたくさんいて、ほとんどの方はまず小児科で相談しています。
精神科での研修を開始し、精神疾患のある患者さんは逆境的小児期体験(小児期における被虐待や機能不全家族との生活による困難な体験のこと)が影響を及ぼしているケースが想像以上に多いことを知りました。小児科の業務として普段行っていた出生前後の家庭環境の評価や介入、複雑な社会背景を持つ家庭への配慮、虐待を疑った時の対応は、患者さんの「今」を助けるだけでなく、その方の未来にもつながっています。
難しいけれど、やりがいがあってとても面白い領域です。ぜひ一緒に勉強しませんか。
柳生 一自 先生北海道大学 2000年(平成12年)卒業
このサイトを見ている方々よりも、だいぶ前の世代になってしまいましたので、何しに・・という記憶も定かではないのですが、当時は定まった初期研修制度もなく、もちろんマッチングなどもなかった時代です。北大医学部を卒業して、漠然と子どもに関わる仕事をしたいなくらいの思いでした。大学病院で同期と一緒の1年間を経て、地方病院で研鑽を積んでいるうちに少し小児科医としてやっていける感覚を得られましたが、何かもう少し別のことをしたくなり小児神経の道に進むことになりました。大学卒業後8年目で大学院に入学しました。大学病院に戻る予定だったのですが、直前に発達障害や肢体不自由児の診療を行う楡の会こどもクリニックに行くこととなり、そこではじめて発達障害をはじめとした子どもの発達の困難や心理的問題などの診療に直接的に携わることになりました。そこは今までとは違う「わからなさ」を感じる場でした。どうして子どもたちが「変わった」行動をとるのか、逆に言えば「変わった」行動を取らない子どもと何が違うのか?どのように彼ら・彼女らと付き合えばよいのか?そういった意味での考えさせられる、やりがいを感じる現場でした。そこで仕事をしたのが子どもの心理発達に関わる仕事をしたいというきっかけになりました。
現在の職場(北海道医療大学心理科学部)は本年4月に着任したばかりで、公認心理師を目指す学生、院生さんの教育指導が中心です。今後は自分のやってきた臨床実践を現場で学生、院生さんに伝えていきたいと思っています。これまで北大小児科、児童精神科では、子どもの発達に関わる、特に読みや書きなど学習に関わる脳機能研究や診断・検査方法の開発などに取り組んできました。また北大にある二台の脳磁計を光ファイバーを通してつなげて二者間のコミュニケーションについて脳科学的研究を行なってきました。こうした研究を継続発展させていきたいと思っています。
今も昔も「こころ」というものは実在しないにも関わらず、非常に謎が多く魅惑的な研究分野だと思います。また臨床の中において「こころ」を取り扱うということは、幅広い知識だけでなく一定の鍛錬が必要になります。現在は「子どものこころ」を学ぶチャンスも増えていていると思いますので、興味のある方はぜひ扉を叩いてみてください。
縄手 満 先生弘前大学 1998年(平成10年)卒業
札幌で出生し、高校まで札幌で過ごしました。弘前大学に入学し、卒業後は北海道にもどると決めていました。卒業後の入局先を耳鼻咽喉科(細かい手術をしてみたく、部活の先輩が多かった)、精神科(よくわからない不思議なことに興味があった)、小児科(子どもがかわいい)の3つに絞り、大学6年の夏休みに北大小児科を見学しました。小林邦彦教授とお話しすることができ、教授の魅力的な人柄に触れ、その場で北大小児科に入局すると決めました。最初の見学先である北大小児科で入局を決めたので、残りの耳鼻科と精神科の見学はやめました。
外来では、発達障害(自閉スペクトラム症、注意・欠如多動症など)、起立性調節障害、睡眠障害、不登校、インターネット依存、抑うつ、興奮・反抗・非行、解離、自傷、虐待などを、初診は1時間、再診は30分かけて診療しています。病棟では摂食障害、重度の起立性調節障害、重度のうつ、重度の適応障害、強い身体化(強い頭痛、見えない、聞こえない、味がしない、歩けない、全身が痛くて動けない、偽のけいれんなど)の診療をしています。また、児童相談所、保健センター、学校などとの連絡、被虐待症例を扱う要保護対策地域協議会に参加しています。
児童精神の仕事は、多職種との交流がとても多く、医学以外のいろいろな社会を知ることが出来ます。教諭・スクールカウンセラー、市役所・区役所職員(特に家庭児童相談員、保健師)、弁護士、警察、大学心理学科の先生や学生、児童デイサービスのスタッフなどと意見交換や症例検討を行い、仕事の世界が広く感じます。
同じ疾病でも家族や学校の背景、本人の特徴が異なり、木(患者)も森(生活環境、周囲の人々)も意識する必要があり、いろいろな場面に対する観察力がつくと思います。会話や交流が苦手ではなく、1つ1つの症例にあせらず、じっくり、ゆっくり試行錯誤しながら、特定の治療方法にこだわらず臨機応変に関わりたいと考えている先生は児童精神の診療に向いていると思います。